さて、結果から言うと、とにかく美味しかった。文句なしに、そば部門のチャンピオンでした。それと同時に、芭蕉庵の店主・山田さんの話は、完全に迷走して袋小路に入ってしまっていたぼくらに、大きな気付きを与えてくれたのです。まずは、店主・山田益広さんとのお話を読んでみてください。
    
藤 本   そもそもなぜ「農民蕎麦屋」なんですか?
     
山 田  
もともと「農民」が最初だから。
栽培する方が原点にあって、そっから蕎麦屋にいってるというか……実は俺、26年間地元の役場に勤めててさ、以前から高齢化と減反政策で、ほんとに使われない土地がいっぱい出てきちゃってたのを「このままじゃダメだなあ」と思ってて。
だから、農業をやろうってことで、ちょうど44歳の時に退職して、その退職金を資本に土地を借りて。ところが、そば栽培だけだと、販売単価よりも生産費のほうが高くなっちゃうのさ。
それで、これは蕎麦屋しかない、と。そういう意味で、蕎麦屋をしていかないと暮らしていけないって分かったので、「農民蕎麦屋」。
     
藤 本   なるほど〜。
     
   
     
山 田  
うちは、化学調味料は全然入ってない。それだけはこだわってるんだ。まあ、自分の家の台所には普通にあるんだよ(笑)。でも店ではこだわってる。
     
藤 本   安心感ありますもん、食べてて。
     
山 田  

わかってもらえる人にはわかってもらえるかなあと思ってね。10年経ってみてね、お客さんがリピーターっていうのかな、こんな山の中でも、何べんも来てくれる人いる。

俺はね、息子にもよく言うんだけど、こねてる時に、上手く作ろうと思うか思わないかで仕上がりが違ってくると思ってる。その人の感情っていうものが入るんだよ。
こういうことって、なんとなく精神論に聞こえるじゃない? でも、昔、友達に見せてもらった科学雑誌に書いてあったんだけど、同じ水が入ったコップが2つあって、一方には毎日「かわいいね」とか「すてきだね」とか言って、片方には「馬鹿者」っていじめる言葉をかけたら、いじめた方の水にカビが生えてきた。中にどういう微生物がいたかどうかわかんないけど(笑)。
そういうのって、普通の人だったら信じられないようなことだけど、自然界にあることなんだと思って。だから作業する時に、美味いものを作ろう、一生懸命作ろうって思いながらやってる。
     
藤 本  
それは本当に大事なことで、受け手である、ぼくらもそうやと思います。「さあ、美味いもん食わしてくれ」って思いだけで店に来ても、せっかくの「美味いもの作ろう」っていう気持ちを受け取ることが出来ないような気がするんです。そうじゃないと、一緒になって美味いものを味わえない。
     
山 田  
そうだねえ。
さらに一方で、こっちはお客さんに認めてもらって初めて自分がやってること評価してもらえるんで、思い上がりだったらダメだからね。例えば「化学調味料を入れない」というのがただの思い上がりになってしまってたら、何の役にも立たない。ただただ、「化学調味料を入れないから俺の蕎麦は最高だ」ではないんだよね。入れない分、ごまかしが効かない分、素材をちゃんとしなければ。そのためにはどうするのか。そういう信念を持ち続けていかねばなあと思うのさ。
     
藤 本   そうですね。そこでさらにお客さんとして、出してくれたものをちゃんと味わえる自分がいるか、ですよね。
     
山 田  
そう、これもわりと大きいんだよね。今の人は化学調味料の味に慣らされすぎでしょう。そういう舌で、いわゆる何も入ってない純粋な素材そのものを出された時に、美味いと感じるか不味いと感じるか。違うと感じてしまったら、もうこれは別の世界の人間になってしまってるからね。でも、これだけいろんな化学的な素材が出てきてる今、防ぎようはないことだけどねえ。
     
藤 本   なるほど、ほんとうにそうですよね。
     

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