前回のこの連載で、『ハチはなぜ大量死したのか』を紹介したが、この本の終わりに訳者である中里京子女史が、「訳者あとがきにかえて」というタイトルをつけて「ニホンミツバチというもうひとつの希望」の一文を寄せられていた。

 現在、採蜜を本業とする養蜂の専門家が飼育しているミツバチは、ほとんどすべてセイヨウミツバチであり、ニホンミツバチを商業ベースで飼うのは難しいという話は、私も以前から耳にしていた。また、ニホンミツバチがダニや病気に強く、オオスズメバチの攻撃に対しても集団で立ち向かい、これを撃退する術を持っているという程度の知識も、以前からあったが、ニホンミツバチがオオスズメバチを撃退する具体的方法が、集団でこのオオスズメバチを取り囲み、ハチの鞠のようになって温度を上げ、それによって熱死させる作戦をとっているとは知らなかった。
 オオスズメバチとニホンミツバチとの耐熱温度は2,3度違い、わずかにニホンミツバチの方が耐熱性が上回っている事が、このボール状にニホンミツバチがオオスズメバチを取り囲むことによって撃退できる作戦の命だという。これを読んで、自然の妙とは実に微妙なことで成り立っているものだと感嘆した。
 しかし、セイヨウミツバチは、こうした方法を知らないので、次々にオオスズメバチに挑んでいくため、2~3万匹の群のセイヨウミツバチも、数時間で僅かな数のオオスズメバチに全滅させられてしまうらしい。

 『ハチはなぜ大量死したのか』を読んで、ニホンミツバチに関心を持っていたところ、私が長崎県の佐世保で講習会を行っている時の世話人であるH氏より、『ニホンミツバチが日本の農業を救う』(久志冨士男著 高文研)という本が送られてきた。この本が送られてきた日は、特に忙しかったのだが、ついつい吊り込まれて読んでしまい、お陰でドイツから来日した人の待ち合わせに少し遅れてしまった。
 興味深いところはいくつもあったが、ミツバチの天敵であるオオスズメバチについても、昆虫として食物連鎖の頂点に立つ存在として好意的とも思えるほど、よくオオスズメバチの立場を理解して解説されているところは、この本のなかでも際立ったところだった。山に入ったり、あるいは住宅地であってもオオスズメバチと遭遇する可能性のあるところに住んでいる人には必読の本ともいえる。

 しかし、やはりこの本全体を通して感じられるのは著者のニホンミツバチに対する深い愛情である。ニホンミツバチが人に馴れ、いかに日本の気候風土に適っているかを説き、どうやってミツバチとコミュニケーションをとり、怒ったハチと仲直りするかまで解説してある。 また、ニホンミツバチは本来日本に古来から野生種として存在しているので、待ち箱を作って、群れが引っ越して来てくれるのを待って飼い始めるという方法があるというのは大変興味を惹かれた。
 確かに私の自宅のすぐそばでも数年前、石垣にニホンミツバチが巣をつくっていたから、私の庭にも待ち箱を置けば、きっとどこからかニホンミツバチの群れがやって来て住みついてくれるだろう。もっとも私のところに一時は住んでくれても、忙しくて世話をしている暇もないから、またどこかに引っ越しをされるかもしれない。

 ニホンミツバチはセイヨウミツバチと違って、自分達が住むのにあまり適した環境ではないと思うと、移転する日を決め、その1週間ほど前から蜜や花粉を集めるペースを落として、引っ越し直前に、まるで夜逃げのように貯めてある蜜を全員が腹一杯食べて、一斉にその巣を捨てて移転してゆくそうである。これはニホンミツバチがセイヨウミツバチにはない意思疎通のための高度な言語を持っているからだろうと、著者の久志氏は推察している。
 また、ニホンミツバチは喜怒哀楽の感情を持っていて、それを常に羽音や体の動きで表現しているという。そして一つの群れは常に群全体で一つの感情を共有しているそうである。したがって、ニホンミツバチを扱う時は、常に耳を澄ませて羽音に注意する必要があるそうだ。嬉しい時は嬉しそうな羽音、苛立つ時は苛立たしそうな羽音、怒った時は怒った甲高い羽音を出し、その羽音が不思議と人間の口調とも共通しているそうである。また、ハチが怒った時、羽を上に上げる行為は、人が怒って眉を吊り上げるのと同じようで、その表現方法までもが同じようなところが不思議であると、久志氏は書かれている。
 そして、働き蜂が、その3~4ヶ月といわれる寿命が尽きる時は、働きながら突然それがやってくるという。ある時、ニホンミツバチがツツジの花びらに止まったまま羽ばたくので、何をしているのだろうと思った直後、地面に落ちて息が絶えてそうである。このような事は、よほど思いを傾けてニホンミツバチを観察していないと見えてこない事だと思う。

 機会があれば、一度私も著者の久志氏にお目にかかって、直にニホンミツバチに関するさまざまなエピソードを伺ってみたいと思っていた。そして、さらに詳しくニホンミツバチの生態について、いろいろと教えて頂き、また、この本の終わりの方に書かれている農薬の被害に関しては、農業の工業化の問題に強い関心を持っている私としては、是非詳しく伺いたいと思ったのである。

 それが思わぬところから、11月の末に佐世保に武術の講習会で伺った折、佐世保の講習会の世話人であるH氏やN氏のお世話で、久志冨士男氏にお会いすることが出来た。久志氏は非常にサバケたお人柄で、お会いして大いに盛り上がったが、同時に極めて重い話を伺った。それは現在、久志氏のニホンミツバチも、その殆どが壊滅状態にあり、数十箱あった巣箱も僅か三箱のみが生き残っているという悲惨な状態になってしまったとの事である。そして、その原因として考えられるのは、現在農協が盛んにその使用を農家に勧めているネオニコチノイド系の農薬以外には考えられないとのことで、とにかく、以前は数多くいたツバメが姿を消し、すずめも秋の田んぼで追い払う必要がないほど激減しているという。しかし、この事に関して役所も反応は冷ややかで、このままでは大変なことになるという。

 その後、久志冨士男氏を中心に「ミツバチたすけ隊」が発足。2010年の年明けにはホームページも開設される予定なので、是非多くの方々がこの問題に関心を持ち、すでにヨーロッパの諸国では禁止されているというネオニコチノイド系の農薬の使用禁止に協力をして頂きたい。

 
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